なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注38

公開: 2021年4月29日

更新: 2021年5月29日

注38. 中村 元の「日本人の思惟方法」

仏教哲学者の中村元は、第2次世界大戦後、アジア人の思惟方法に関する研究をまとめ、その第3巻として「日本人の思惟方法」を出版した。そこで中村は、日本語の特徴に、感情を表現するための形容詞が豊富であるのに対して、客観的な状態を説明するための形容詞が極めて少ないことを指摘した。和歌を書くためには適しているが、史実を記録するためには適していないとした。

さらに中村は、日本語には、形容詞から名詞を作る体系的な方法がないことを指摘した。例えば「美しい」と言う形容詞から、「美しさ」と言う名詞は作れるが、人間の生き方として「望ましい」状態にあることを、名詞化して表現することが難しいのである。これは、ソクラテスが言った「善」と言う名詞に相当する言葉である。つまり、哲学的な思考を展開するのに、日本語は向いていないとした。

このような考察に基づいて、中村は、日本人の思考が、人間の間の関係を重んじ、それを超えた理論や原則を重視せず、絶対的な正義や正しさよりも、この場合、何が現実なのかを考える傾向があることを指摘した。この傾向は、中国人や朝鮮半島の人々よりも著しく、現実的であるとした。また、複雑な論理を追うことを好まず、単純な説明を好む性質があり、歴史的に伝統のある「もの」や「こと」を大切にする傾向が強いとした。

これらが複雑に絡み合うと、日本人の変化を嫌い、古くからの制度や慣習を、それらが正しいものであるかどうかをよく吟味せずに、前例として、盲目的に大切にし、従う傾向を強くするのである。

参考になる読み物

日本人の思惟方法、中村 元、春秋社、1989